edited by Ryutaro Mori
5/30更新「『好きより価値を追求しろ』ネットの覇者アンドリーセンが語るプロダクト論」
5月15日、米最大手新聞社New York Timesが、ある重要な社外秘レポートをリークしました。
「Innovation Report」と題されたこのレポートは、ニューヨークタイムズの課題、つまり現状の弱みを明らかにする重大なドキュメント。
本日は、このドキュメントから見えた、既存メディアの今後を左右する課題を6つ紹介します。
ホームページの終焉
圧倒的なブランド力を誇るニューヨークタイムズは、長きにわたってトラフィック元をご指名検索やお気に入りに依存してきました。
ソーシャルメディアがニュース源となるWEB3.0時代以前であれば通用したこのトラフィック獲得施策ですが、ブランド力のみに依存した戦略は、現代においてはもう通用しないことをInnovation Reportは明らかにしています。
まずは以下の画像をご覧下さい。
ホームページへの訪問者を時系列で追った上記のグラフは、2011年のピーク時に記録した1億5,000万から、2013年にはおおよそ半分にあたる8,000万に激減していることを示しています。
また、以下の引用文は、ブランド力に依存した集客戦略がもはや通用しないことを強調しています。
ホームページは読者にニュースを届ける為の主要ツールだったが、そのインパクトは薄れてきている。[…] 現状で読者の1/3しかホームページを訪れていないし、ホームページ訪問者の滞在時間も減少している。昨年に関しては、ホームページ訪問者のPV数と滞在時間が、それぞれ2桁台のパーセンテージで減少しています。
過去の発見
ニューヨークタイムズには1,470万もの記事が眠っているのにもかかわらず、新しい情報に執着しすぎた結果、私たちは過去記事を発掘することをすっかり忘れてしまっている。他のメディアは古い記事を改めてシェアすることをはばからないし、ニューヨークタイムズの過去記事を発掘して、搾取しているのにもかかわらずだ。
歴史あるニュースメディアとして、新しい情報をどこよりも早く届けるという使命は今も同じ。
しかし、バイラル系のメディアが続々登場した結果、「新しい情報」の価値が薄れていることも事実であり、既存メディアにも過去の発掘が今求められています。
「テンプレ」の確立
ニューヨークタイムズのオンライン版史上、最もPV数を稼いだコンテンツが「複数の人間を一度にまとめて呼ぶ時、どんな人称代名詞を使う?」という至極シンプルなクイズコンテンツであったとレポートは明かしています。
クイズと言えば、BuzzFeedが以下の画像のようなテンプレのクイズコンテンツの形を確立し、以来大きな人気を集めていますが、もちろん重要なのは「クイズコンテンツを増やす」ということではありません。
(BuzzFeedのクイズコンテンツは、当てはまる選択肢をクリックしていくと、何らかの分析結果が得られる仕組み)
以下の引用文が明らかにするように、問題は新たなコンテンツの形を追求する努力を怠ってしまった既存メディアの怠けにあるのです。
BuzzFeedとニューヨークタイムズの対比は、デジタル時代における既存メディア最大の課題の1つを明らかにしている。[…]私たちは1回きりの当り記事をだすことにばかりリソースを割き、その結果として永続的にリサイクルが可能なツールやテンプレの開発から目を背けてきたのだ。
5/30更新「『好きより価値を追求しろ』ネットの覇者アンドリーセンが語るプロダクト論」
ソーシャル
10%以下。
ソーシャルメディアがニューヨークタイムズのトラフィック元を占める割合です。
新ニュースメディアと呼ばれるサービスがトラフィックの大半をソーシャル経由で獲得していることを考えると、圧倒的に少ない数字と言えるでしょう。
ニューヨークタイムズのレポートは、問題の一部が社員の教育にあったと語っています。
ニューヨークタイムズのジャーナリストはより多くの読者に記事を読んでもらって、インパクトを与えたいと願っているけど、多くの人材はソーシャルメディアを効果的に使う方法を知らない。[…] (コンテンツを書くだけではなく、)コンテンツをプロモーションするタスクを毎日のワークフローにもっともっと統合していく必要がある。
ソーシャルとの隔離は、ニューヨークタイムズのマネージング・エディターであるDean Baquet氏のツイッターアカウントを見ても明らか。
6,335人のフォロワーを抱えながら、未だかつて1度たりともツイートしていないのです。
カスタマイズ
現在ニューヨークタイムズが提供するカスタマイズ機能は、「あなたにおすすめの記事」というタブのみ。
この精度が高ければ問題ありませんが、リポートは「(おすすめの記事機能は)私たちが思う通りの精度に達しておらず、読者からも多くの苦情を受けている」と明記しています。
また、ニューヨークタイムズお抱えのデータサイエンティストは「ウチは完全に間違ったアルゴリズムを使っている。フィックスしたいけど、その為にはエディター達の協力が不可欠なんだ。」とレポートの中で語っており、優秀な人材を活かし切れていない現状が浮き彫りになっています。
レポートは見逃してしまった記事を発見する機能や、位置情報を活用したニュース発見機能を採用する可能性も示しています。
フォローアビリティ
カスタマイズに関連して、ニューヨークタイムズは関連記事や現在進行中のニュースの動向を簡単に追うことが可能になるタグ付け機能の実装にも苦戦していることがリポートを通じて明らかになっています。
立ちはだかる壁としてレポートは技術的な投資とワークフローに発生する変化を指摘しており、問題は明らかであるにもかかわらず、前進する様子は伺えません。
レポートの監修者は「毎日(変化を)待っては、その度に競合に遅れを取るんだ」と語っており、巨大メディア故の意思決定の遅さが明らかになっています。
5/30更新「『好きより価値を追求しろ』ネットの覇者アンドリーセンが語るプロダクト論」
最後に
メディアの形は日々姿を変えています。
既存メディアに危機感を抱かせるバイラルメディアも、いつその終焉を迎えるかは分かりません。
今何を、どのような形で提供しているかと問うことは勿論重要ですが、絶え間ない変化についていく体制が整っているかどうかを常に問い続ける重要性を、NYTのレポートは語っている気がします。