「グロースハック」は小手先のテクニックではありません。
2012年〜2013年頃にシリコンバレーで話題となり、その後1年以上経過した後に日本でバズワードとなりましたが、バズワードになったが故にグロースハックの定義は人やチームによって曖昧です。
特に、小手先のテクニック(ボタンの色を変える)などに目が行きがちなグロースハッカーも多く見かけた印象があります。今回は、ユーザーがWebサイトやアプリケーションを使う時の心理状況を踏まえた上で本質的なカイゼンを行い、CVR(コンバージョンレート)が10倍にもグロースした事例を、失敗体験を交えてご紹介いたします。
今回は、数多くのWEBメディアを立ち上げ・運営している株式会社じげんで行われた事例で、アルバイトEXや賃貸SMOCCA!などの媒体を運営しているベンチャー企業ですが、派遣の案件を12万件以上掲載している「派遣EX」というメディアでのグロースハック事例です。
やりたかったことはメルマガ会員の獲得
2014年某日、派遣EXの会議は以下のような話がありました。
マーケSさん
「派遣EXではメールマガジンの配信からのコンバージョン(求人案件への応募)が非常に高い傾向にあるよね」
マーケWさん
「確かに、ユーザーが求人案件へ応募するチャネルとしては、メールマガジン以外にもオーガニック検索での流入やリスティング広告からの流入など様々だけど、その中でもメールマガジンというチャネルから流入してきたユーザーの応募率は非常に高いよね(数値は伏せております)」
このようなテーマをキッカケに、話は進んでいきます。
ディレクターXさん
「メールマガジン登録者数を増加させたいね。どうやったらうまく会員獲得できるかな?」
セールスMさん
「会員登録導線のバナーをトップページに貼ったらどうだろう?一番目立つスペースが確保できるし。」
エンジニアHさん
「そうだね、案件表示に差し支えない範囲で一番目立つ所に貼ってみるのがいいかも。」
このような具合に、メルマガの会員登録導線のバナーをサイトトップページの比較的目立ちやすい場所に貼ることに決定しました。バナーの場所はこれまでのディレクションの経験やデータを元に最も有効と考えられる場所を選択し、ボタンの色もいわゆるCTR(クリック率)が高いと言われる色の中からサイト全体のデザインとの親和性が高いものにしました。
あとは1イテレーション分のデータが出るのを待つばかり・・・。
果たしてその結果はどうだったのでしょうか?
最初の取り組みは惨敗!
残念ながらメルマガ会員登録のバナーを貼ってもほとんど効果はありませんでした。
WEBサイトを人間が見る時の目の移動導線や効果的な色彩などを十分にリサーチしたにも関わらず、イマイチな結果。
この結果を受けて、派遣EXチームでは振り返り会が行われました。
マーケWさん
「今回の結果はイマイチだったね。だけどやろうとしてることは間違ってないと思うんだよね。メルマガ会員登録のCVRを上げるための改善策考えてきた人いるかな?」
ディレクターXさん
「うーん、ボタンとかは結構文言が大切っていうよね。今は”会員登録”って言葉を使ってるけど、ユーザーからしたら登録へのハードルが高く感じるし、”メルマガ登録”とかにしてみてライトな感じにしたらどうかな?」
セールスMさん
「それはあるかもしれないですね。”会員登録”だと派遣EXへのユーザー登録的な印象を受けるかもしれません。ボタンはできるだけ次のアクションが明確になっている文言が適しているらしいですし、変えてみるのはありなんじゃないですか?
それと1つ思ったことがあるんですけど、いいですか?トップページだけじゃなくて案件が掲載されている詳細ページにもバナーを貼ってみたらどうでしょうか?ユーザーが案件を見ながら”このサイトの情報を引き続きゲットしたい”ってなるのは詳細ページですし、そこにバナーが無いのは不自然かと思いました。」
このような形で振り返り会は進み、次の改善策としてはバナーの文言の変更を行い、そのバナーを案件詳細ページのサイドカラムに表示するように変更を加えることに決定しました。
2回目のチャレンジも失敗。ユーザー心理を考えることにする。
2度目の改善策も残念ながらあまり効果はありませんでした。トップページだけではなく、詳細ページにもメルマガ登録導線のバナーを設置したことでCVRは少し向上したものの、大幅なカイゼンとはなりませんでした。
ディレクターXさん
「今までの反省としては議論がかなり小手先のテクニックに寄ってしまった感じがあるなあと思います。もっとユーザーの目線に立って、派遣EXを見てくれている時にはユーザーさんはどのような気持ちでページを訪れていて、どのような心境なのかを考えないとダメだと思います。」
マーケWさん
「そうだね。もっと本質的なユーザー心理を考えた上での施策を打ちたいね。」
セールスSさん
「ユーザーが案件の詳細ページに来てる段階ってどんなシーンなんだろう?」
マーケWさん
「ある程度条件は絞られた状態だよね。勤務地とか職種とか給与とかで絞り込んでたどり着いてるはずだから」
セールスSさん
「なるほど。あとはメルマガに登録するっていうことはきっと希望の案件が見つからなかったってことですよね。良い派遣案件があったらお知らせしてほしい、見逃したくない、という感じとか。」
エンジニアHさん
「うん、そうですね。ある程度条件は絞られているけど、いいお仕事が見つからないっていうシーンが一番メルマガのニーズがあるよね。あとは単純にメルマガ登録って書いてあってもそのメルマガで何が配信されるのかがわからないのはよくないですね。」
マーケWさん
「ちゃんとユーザーさんが欲しがっている情報がメルマガによって届けられるってことがわからないといけないね。派遣の場合は仕事を探す条件って頻繁に変わるものじゃないし、”あなたが探している新着の求人案件をお知らせします”みたいな文言がいるかもしれない。」
ディレクターXさん
「いいですね。でも、”あなたが探している”だと曖昧だからもっと具体的に書いちゃってもいいんじゃないですか?仕事の検索条件はあんまり変動がないことを考えると検索された求人案件に対応したワードを入れた方がユーザーにとっては理解しやすいと思います。」
マーケWさん
「いいねそれ!東京都赤坂区で事務の仕事を探している人がいたら、”赤坂区の事務のお仕事の新着情報を受け取りませんか?”みたいにしようよ!」
全部の議論の中から要約して書き出していますが、今回の議論ではユーザーのことを徹底的に考え、ユースケースやユーザーニーズを中心に改善策を考えだしました。
これまでもユーザーのことはもちろん考えていたつもりだったのですが、それではまだ浅い議論で、今回の議論でより本質的な議論をすることができました。
この対策の結果、メルマガ会員登録のCVRはこれまでの施策の10倍以上の数値になり、今後の成功事例の1つとなり得る施策となりました。
まとめ
– ユーザーの興味の対象は何なのかを考えることが大切です。ボタンの色や位置などではユーザーにクリティカルな訴求は難しく、ユースケースやユーザー心理を踏まえた上での施策を考案しましょう。
– ただし全てユーザーに迎合するのではなく、サービス運営者側が持って行きたい方向にきちんと持っていけるようにする必要があります。ユーザーに取って欲しいアクションを喚起するためにユーザーの興味の対象にアジャストしていきましょう。
もちろん、ボタンの色や場所、文言などの変更もユーザーの行動に影響を与えるため、施策としてはドンドンやっていきたいところです。
しかしながら、そういった小手先だけがグロースハックではなく、しっかりユーザーと向き合うことが大切であるということが学びとなった事例でした。